由緒ある寺の参道が長い理由

お寺では車イスやよほど足の悪い方を除いて、山内への車の乗り入れを制限している。
すると中には、「駐車場から本堂や受付までの距離が遠い」と小言をおっしゃる方がある。
面白いことに、そのような方は足腰が悪いのかと言えばそうではなく、
ゴルフや旅行にはいそいそとお出かけになるぐらいの健脚をお持ちだったりする。
要は、歩くのが面倒なのだ。むしろ本当に足腰が悪い人ほど文句は言わなかったりする。

 

それにしても、ちょっとの距離を面倒くさがる怠け者が増えた。
イオンなどの広い駐車場を有するショッピングモールに行けば、出来るだけ店舗入り口に近いスペースを探してグルグルと駐車場を巡る。
ちょっと、ほんのちょっと歩けば空きスペースがたくさんあるにも関わらず、である。
雨が土砂降っているワケでも、大きな買い物をしなければならないワケでもない。
女性が片腕にひっかけて持てるぐらいの手提げ袋で済む買い物に来ただけだ。
それでも1メートルでも出入り口に近いスペースに停めたいのだ。
かくいう私も、かつてはそのうちの1人だった。
しかし、こうした怠け者の習慣が寝たきり老人への始まりであることを知ってからは、自らの行動を改めるようになった。

 

専門家によれば、寝たきりは「なる」のではなく、「つくられる」のだという。
筋肉は使っていないところから、衰えていく。年齢とともに体力の回復能力も衰えていく。
毎日、毎日適度に使い続け、刺激を入れ続ける必要があるのだ。
30代40代の健康な男性が、スポーツジムに週3日、2時間通って運動しても、デスクワークで週3日、2時間座りっぱなしでいれば運動の効果は相殺されてしまう。
70才、80才の健康な男性が、ちょっと体を病んで寝たまま過ごせば、1日に2%の筋力が低下する。
寝たきりや重度の介護が必要になった高齢者の4人に1人は、とくにケガや大病を患った訳ではなく、日ごろの運動が足りないために徐々に筋力が衰え、寝たきりになっているのだ。

 

一方で、85を過ぎてなお矍鑠としておられる高齢者には、まず怠け者はいない。
決してスポーツジムに通っているわけではないけれど、日の出とともに起き、日の入りとともに床に入り、必要以上に食べることをせず、田んぼに畑にクリクリと出かけていくことを厭わない。
どうやらそうした若い頃からの運動習慣、生活習慣が、高齢になってもなお、人の世話になることなく自由に動ける状態に繋がっていることを、身近にいらっしゃる多くのお年寄りから学んだ。

 

だから私も、ショッピングモールの駐車場では、出来るだけ建物の出入り口から遠い場所に車を停め、駅のホームへの昇降は大きなトランクを持った旅行でも階段を使うよう心がけている。
寺においても、掃除機やモップばかりに頼らないで、全身を使って雑巾がけをする。木に登って剪定をし、斜面を踏ん張りながら草を刈る。

 

世の中はどんどん豊かで、便利になっていく。
道路一本にしても、昔はガタガタ道で、雨でも降ろうものならぬかるんで非常に歩きにくかった。
それが今は多くの場所がアスファルトで舗装され、どこへ出かけるにも楽に移動できるようになった。
公共の施設はどこもバリアフリーの設備が整っている。
私たちが日常、あらゆる作業において力を使わないで済むよう、便利な道具やロボットがどんどん開発されている。
体の不自由な人にとっては本当に助かることだろう。
しかし同時に、こうした弱者に優しい工夫が、足腰が全く悪くない人をも軟弱化、怠け者化させる現象をも引き起こしている。

 

それにしてもなぜお寺の参道は長いのか。
それは、お寺が祈りの場であり、瞑想の場であり、本来の自己を見つめ直す場であり、修行の道場だからだ。

 

駐車場から本堂に至るまでにあえて、「参道」と呼ばれる俗世から聖域への通り道を、自分の両の脚で大地を踏みしめながら歩くことになっている。
あの面倒な参道の距離は「日常の喧噪から離れ、心を落ち着かせ、静かに自分の心身の状態を見つめる」ための工夫なのだ。
だから由緒ある名刹ほど、しっかりと気持ちの切り替えが出来るよう、長い参道が設けてある。

 

出来るだけ簡単に、出来るだけ快適に、出来るだけ速く、出来るだけ面倒でないようにと、物質的な豊かさや効率、便利さだけを求めた結果、人間本来が持つ肉体的、精神的機能が失われつつある事実に無知であってはいけない。

 

歩くだけでそのことを教えてくれる道が、お寺への参道なのである。

行事報告:福厳寺の送り火(平成27年8月16日)

行事報告:秋の彼岸会(平成27年9月13日)

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